ミリ波レーダーのEMI対策とは?ADAS向け材料選定と導電性樹脂の活用法
ADAS(先進運転支援システム)の高度化に伴い、車両周辺の検知に用いられるミリ波レーダーの重要性が高まっています。一方、高周波帯域を利用するレーダーには、電波干渉やノイズ対策といった特有の課題があります。本記事では、ミリ波レーダー用材料に求められる特性と、EMI対策材料としての高分散CNT技術について解説します。
なぜADASではミリ波レーダーの材料選定が重要なのか
ミリ波レーダーは、車両周辺の距離や相対速度を測定します。カメラなど他のセンサーと特性を補完し、ADASに活用されています。 高い周波数帯を利用するため、筐体や周辺材料の誘電率(εr)や誘電正接(Df/tanδ)などの誘電特性、電波の反射、内部回路のノイズが検知性能に影響を与えます。
そのため、電波を透過させる材料と、不要な電磁波を抑えるEMI対策材料を、適用部位に応じて使い分けることが重要です。
筐体設計では「電波の透過」と「電磁波の遮蔽」という、物理的に相反する機能を同時に達成する必要があります。
以下に、ミリ波レーダーの開発現場で直面する主な技術的課題をまとめました。
課題項目 |
内容 |
|---|---|
電波減衰 |
レドーム(レーダーを保護しながら電波を透過させるカバー)材料の誘電損失により、検知距離や精度が低下する。 |
不要輻射(EMI) |
内部回路からのノイズが受信系に干渉し、S/N比 (信号とノイズの比) を悪化させる。 |
反射・回折 |
筐体形状や内部構造による意図しない電波の反射がゴーストの原因となる。 |
環境耐性 |
車載環境特有の温度変化や湿度が、誘電特性の変化を招く。 |
電波透過性とノイズ(EMI)のトレードオフ
ミリ波レーダーの材料設計では、電波を透過させる前面のレドームと、不要な電磁波を抑える筐体・周辺部に、それぞれ異なる機能が求められます。 通常、電波を透過させる前面部には絶縁性の樹脂材料が用いられますが、筐体内部のノイズを遮蔽するには導電性材料が有効です。
しかし、レーダーの前面(検知面)に導電性の高いシールドを配置すれば、当然ながらレーダー波自体も遮蔽されてしまい、検知機能が失われます。そのため、設計者は「どの部位にどの程度のシールドを施すか」を極めて慎重に判断しなければなりません。
電波の透過が必須な領域には誘電正接(Df/tanδ)が低い樹脂を選びます。一方、回路基板周囲などのノイズ源には、特定の周波数帯を吸収・反射するシールド技術を適用します。
ミリ波レーダーに適した樹脂材料の選定基準
ミリ波レーダーの筐体やレドーム(電波透過カバー)に用いる樹脂材料の選定は、レーダーの検知精度を左右する極めて重要なプロセスです。車載環境では、走行中の温度変化や振動、あるいは湿気や薬品への曝露といった過酷な条件に耐え抜く高い信頼性が求められます。
材料選定において最も重視すべきは、使用するミリ波帯域(主に76〜81GHz)における誘電特性です。誘電率(εr)や 誘電正接(Df/tanδ:電波が材料を通過するときの損失の大きさを示す指標) が高い材料を使用すると、電波が透過する際に熱エネルギーとして損失が生じ、検知距離の短縮や信号の減衰を招きます。そのため、使用周波数帯に適した低誘電・低損失材料を選定することが重要です。
加えて、車載部品としての物理的強度や成形性も無視できません。複雑なフロントグリル周辺に適合するには、薄肉成形や複雑形状への追従性が求められます。剛性と誘電特性のバランスを最適化したエンジニアリングプラスチックの選定が重要です。
車載用レドーム材料の選定基準一覧
レーダー前面のレドームには、使用周波数帯で電波の減衰や反射を抑えられる材料が求められます。誘電率や誘電正接だけでなく、耐熱性、耐候性、寸法安定性、成形性などを総合的に評価する必要があります。
項目 |
選定ポイント |
|---|---|
誘電正接 |
信号減衰を最小化するため、使用周波数帯における信号減衰を抑えられる低い誘電正接の材料を選定 |
誘電率(εr) |
屈折による電波の乱れを防ぐため、安定した低い誘電率を持つ材料を選択 |
環境耐久性 |
車載環境下での温度特性(Tg)や耐候性、耐薬品性を確保 ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)、ポリアミド(PA)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリカーボネート(PC)、塩化ビニル樹脂(PVC)、アクリロニトリルブタジエンスチレン(ABS)、シリコーンゴム、エチレンプロビレンゴム(EPDM)、アクリロニトリル・ブタジエンゴム(NBR) |
成形・加工性 |
複雑な筐体設計に対応可能な流動性と寸法安定性の確保 |
EMIシールド材料の選び方と高分散CNTの可能性
ミリ波レーダーのEMI対策において、筐体や周辺部品にどのようなシールド材料を採用するかは、レーダーの検知精度を左右する重要な設計要素です。電磁波シールドには「反射型」と「吸収型」があり、それぞれ異なる特性を持っています。
近年は、高周波化の進展に伴い、不要な反射を抑えながらノイズを制御する技術への関心が高まっています。その中で、カーボンナノチューブ(CNT)を活用した高分散材料は、ミリ波領域における電磁波の吸収・遮蔽性能を備えた材料として期待されています。
「反射型」と「吸収型」の使い分け
反射型と吸収型のシールドは、求められる機能とノイズ環境に応じて適切に使い分ける必要があります。
反射型シールド
特徴 |
金属等の導電体により電磁波を跳ね返す |
|---|---|
用途 |
筐体外殻のシールド、外部ノイズの遮断 |
吸収型シールド
特徴 |
磁性粉やカーボンで電磁波を熱に変換し減衰 |
|---|---|
用途 |
内部反射の抑制、基板近傍のノイズ対策 |
反射型は遮蔽効果が高い一方、筐体内の多重反射がノイズの原因になります。吸収型は反射抑制に適しているため、用途に応じて両者を使い分けることが重要です。
高分散CNTが「車載レーダー用途」で期待される理由
カーボンナノチューブ(CNT)は、高い導電性とアスペクト比 (繊維の長さと太さの比) を持ち、樹脂に電磁波の遮蔽・吸収機能を付与するフィラーとして活用されています。一方、CNTは凝集しやすく、樹脂中に偏りが生じると、期待する性能や成形品の品質を十分に引き出せないことがあります。
森六は、凝集したCNTを解砕し均一に分散させる独自技術を開発しました。この技術により、少量のCNTで導電性を効率的に発現させ、柔軟性や成形性、表面外観との両立を図っています。
また、CNT添加量を調整することで、電磁波の遮蔽を重視した特性と、不要な反射を抑える吸収を重視した特性を設計できます。ミリ波領域においても吸収・遮蔽性能を確認しており、車載ミリ波レーダー筐体をはじめ、5G・6G基地局用アンテナモジュール筐体、産業用センサーなどへの活用を想定しています。
まとめ:ミリ波レーダーのEMI対策で成功するために
ミリ波レーダーは部位により材料に求められる機能が異なります。 森六の高分散CNTは、添加量の調整により遮蔽・吸収特性を設計できるため、車載レーダー筐体などのEMI対策材料への活用が期待されます。
よくある質問(FAQ)
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CNTは高いアスペクト比を持ち、少量でも導電性を付与しやすい材料です。ただし、その性能を引き出すには樹脂中での分散状態が重要です。森六では、凝集したCNTを解砕し、均一に分散させる独自技術を採用しています。
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使用するベース樹脂やCNT配合、成形条件によって耐熱性・耐久性は異なります。森六ではPP、PA、PC、PBTなど幅広い樹脂への対応が可能で、用途や要求特性に応じたカスタマイズを行っています。
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導電性材料は電波を遮蔽するため、レーダーの送受信面には使用できません。透過が必要な箇所には低誘電材料を、ノイズ源となる筐体内部には導電性樹脂を用いるといった「適材適所」の設計が不可欠です。また、誘電正接の制御も重要となります。
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